まだ写真学生だったころ、富士山の山開きに呼応して7月1日にかかる地元十条の縁日〈お富士さん〉を撮ろうと、前日にロケハンに行った時であった。商店街から100メートルほどの長い道に不穏な群衆が動いていた。
時には荒々しく、うずまく男たちの熱気と狂気と惰気。私はすぐ自宅に戻りカメラを取り出し、現場にとって返した。
夢中でシャッターを切った。10分近く経った頃だろうか、私は男たちにかこまれていた。「あんた写真なんか撮ると半殺しなるヨ」とどなるオバさんがいた。一発くるかと思っていると、親分格らしい一人が「俺を撮ってくれ」と言いながら体臭をむんむんさせて近づいてきた。これで形勢は逆転。それから私のテキヤ街頭写真師がはじまった。(中略)
「ミイラ取りがミイラになるな」と心よく被写体になってくれた姐さん、兄さん、オヤジさんたち、本当にありがとう。
渡辺 眸